観音滝物語

観音滝には「お清めの滝」「鴛鴦おしどりの滝」「観音滝」の3つの滝があり、
昔から地元に伝わる物語が秘められています。

時は江戸時代。寛永17年に金山が発見され、山奥ながら多くの人々が集まり賑わってきた頃、簗平の里の庄屋の家に可愛い女の子が生まれた。
庄屋は村一番の人格者で、仏教にも熱心な信者であった。諏訪の高台にあった久永寺の和尚さんとも親交を重ねていた、そうして穏やかに暮らしていくうちに娘も美しく成長した。

娘が年頃になった時、縁談の話も少しづつ出てきたのだが、どうも様子がおかしい。
部屋に閉じこもり、食事もろくに取らず日に日にやつれていく娘を父親は心配していた。
実は、娘は父親と久永寺にお参りしたときに見かけた仏のような顔をした若いお坊さんに一目惚れをしてしまったのだ。しかし当時のお坊さんは結婚することも、恋仲になることもできなかったため、娘は声をかけることもできず思い悩んでいたのだ。

しかし、お坊さんに抱いた恋心を忘れることもできず悶々と生活していくのも辛いものである。
そんなある日、滝の辺りに来て無心で眺めていると、滝の中に若いお坊さんの姿が現れこちらに向かって微笑みながら手を伸ばしているようにみえた娘は思わず滝の中に身を投げてしまったのだ。
娘の様子を心配してあとを付けていた父親は、その様子を見て驚いて娘を水の中から引き上げ、やっとのことで家に連れ帰った。一命をとりとめた娘の口から本当のことを聞き出した両親は、滝の悪霊の仕業に違いないと滝壺に向かって観音経を唱え、一心に仏の加護を祈った。

何ヶ月も祈りを続けていると、ある日突然、雷雨に見舞われた。すると滝の前に観音様が現れ、こちらに向かって手を差し伸べた。
このことを久永寺の和尚さんに相談して、観音岩の下に小さな石祠を建て、観音像を祀ってお祈りをした。また、久永寺の和尚さんが若いお坊さんにこのことを話したところ大変感激し、厳しい修行を終えたら俗人に戻り庄屋の婿になることを約束した。
修行を終えたお坊さんは約束通り、娘と結婚し村人に尽くした。里の人々もこの若い夫婦を見習い、観音様のお陰と感謝し、毎日欠かさず観音経を唱え一生懸命に働いたので豊かな村になっていったようである。このことから、この滝を「観音滝」と呼ぶようになった。